腸と脳(腸脳相関)

腸と脳

腸は「第二の脳(セカンドブレイン)」と言われるほど、脳と深い関わりをもっています。

 

よく「こころとからだはつながっている」と言いますが、その理由は腸と脳に密接な関係性があるからだと考えられています(腸脳相関)。腸という消化管には脳の約60%もの神経細胞が存在していると言われています。

 

そのため、特に近年は「うつ」などの精神疾患と腸内フローラの状態に何らかの関係性があるという指摘も研究者から多くなされるようになってきています。

 

 ミミズにもわずかに目の原型のようなものがあり、進む向きがあり、土を食べる側があるので、かろうじてどちらが口で、どちらが肛門かが判別できる。まだ、脳と呼ぶべき中枢の場所は定かではない。神経細胞は、消化管に沿ってそれを取り巻くようにはしご状のネットワークを形成しつつ分布している。

(中略)

 意外なことに、脳がないとはいえ、ミミズは、あるときは葉っぱのどちら側を咥えれば巣穴に運び込むのに都合がいいのか、迷いつつ「考え」さえしているのである。

(中略)

 優れた「脳」、つまり中枢神経を持った私たちにも、消化管に沿って緻密な末梢神経系が存在している。

 そして、脳で情報伝達に関わっている神経ペプチドと呼ばれるホルモンとほとんど同じものが、消化管近傍に存在するのか、そしてそれらが日々、いったい何をつかさどっているのかは未だによくわかっていないのである。

(福岡伸一『動的平衡』より)

 

 腸の神経系は第二の脳だとよく言われる。数億個にも上るニューロンが、胃腸を制御する腸神経系と脳のあいだをつないでいる。この大規模な通信網は、食道から肛門までの消化管全体に目を配っている。腸神経系はきわめて大規模で、中枢神経系からの入力がなくとも独立してはたらくとはいえ、両者はつねに情報を交換しあっている。ジャスティン・ソネンバーグ,エリカ・ソネンバーグ『腸科学 健康な人生を支える細菌の育て方』 鍛原多惠子訳 p172~173

 

さらに例えば、腸管免疫で活躍する免疫細胞のマクロファージは、サイトカインのような生理活性物質を分泌することで、神経系や内分泌系の働きを活性化させることが知られています。さらに、神経系や内分泌系も自律神経やホルモンの分泌を介して、免疫系に影響を与えていると言われています。

 

つまり、人体のシステムにおいて、免疫系と神経系、内分泌系は相関関係にあるのです。

 

そして、腸と脳は神経系において特に強いつながりをもっています。

 

腸と脳の働きを支える神経系の重要な構成単位は、「ニューロン」と呼ばれる神経細胞です。ニューロンは脳内に数百億個以上存在していることが知られていますが、実は腸にも約1億個存在していると言われています。

 

この腸におけるニューロンは、数では脳に及びませんが、いのちを支える消化や吸収、免疫系に関して、同じく約1億個のニューロンが存在している脊髄に引けをとらない重要な働きをしているとされています。

 

ちなみに神経系といっても様々なものが存在していますが、大きく分けると中枢神経系と末梢神経系の二つに分かれます。

 

中枢神経系は脳と脊髄に関わっており、一方、末梢神経系は、運動神経や感覚神経、自律神経系から成っています。また、末梢神経系の自律神経系には、交感神経系や副交感神経系だけではなく、腸の働きと関係がある「腸神経系」も存在しています。この腸神経系は「腸の脳」とも呼ばれています。

 

 腸神経系のはたらきは、脳と中枢神経によって統制されている。中枢神経は、自律神経系(心拍数、呼吸、消化などを制御する不随意神経系)の交感神経と副交感神経を介して腸と連絡を取りあう。自律神経系の仕事は、食べ物の腸通過時間の調整、胃酸の分泌、腸の内壁を覆う粘膜の合成にある。視床下部‐下垂体‐副腎軸(HPA)は、脳が消化を助けるためにホルモンを使って腸と連絡を取りあうもう一つのメカニズムだ。ジャスティン・ソネンバーグ,エリカ・ソネンバーグ『腸科学 健康な人生を支える細菌の育て方』 鍛原多惠子訳 p173

 

脳に支配されない腸

 

この自律神経系である腸神経系は、自分で行動を律することができることが特徴です。そのため、脳からの指示にさほど影響を受けることなく、独自に働くことができます。腸は24時間常に働いていなければならないので、脳の指令によって簡単に消化・吸収などの働きをストップするわけにはいかないのです。

 

特に腸の蠕動(ぜんどう)運動は、食物の分解・吸収が効率的に行われるように腸が独自の判断で行っている物理的な作業であり、生命の営みに必要不可欠なものです。

 

そして、腸が「第二の脳(セカンド・ブレイン)」と呼ばれているのは、腸が脳よりも劣っているという意味では決してなく、筋肉の弛緩と収縮によって引き起こされる複雑な蠕動運動を、腸神経系が休むことなくコントロールしているからです。

 

ちなみに、自律神経系の交感神経系には腸の運動を抑制する働き、副交感神経系には腸の運動を促進する働きがあります。こちらの自律神経系については、例えば副交感神経系を優位にしたければ深呼吸を行うなど、ある程度自分でコントロールすることが出来ますので、自律神経を刺激することで腸の運動に働きかけることは可能だと考えられています。

 

また、腸は脳の支配から独立した働きをしていますが、反対に腸は脳に対して影響を与えることが出来るのでしょうか。実は腸は、脳にコレシストキニンといったホルモンを介して満腹であるという情報を伝え、食べ過ぎを抑える作用を果たしていると言われています。

 

脳は腸を支配することは出来ませんが、腸は必要に応じて脳に情報伝達を行っているのです。

 

脳と内臓感覚

 

ちなみに医学博士の福土審氏は、様々な感情・情動が腸に由来し、意識にはのぼらなくても脳に確かに影響を与えていることを「内臓感覚」と表現しています。

 

 内臓感覚は普段は空腹感や満腹感、病的になると腹痛や腹部膨張感などとして自覚される。われわれは、満腹感が出てくれば、食物を食べ続けることを中止する。便意が出てくれば排便する。内臓感覚は、血液の中に増えてくる化学信号による制御とともに、摂食と排便というヒトの重要な行動を左右しているのである。ただし、これらはスプラリミナルという、「意識に上る感覚」についての常識的な話である。ところが、内臓感覚には「脳には信号が入るが意識には上らない感覚」もある。これが、サブリミナルだ。

 サブリミナルは、広告の世界で有名になった。映画やテレビの番組に、瞬間的に、意識に上らないぐらいの短時間、商品の映像を混入する。すると、潜在意識に広告商品の印象が刻み込まれるというものである。内臓感覚は視覚や聴覚などのわかりやすい感覚に比べて、はるかにこのサブリミナル処理がなされている感覚である。

福土審『内臓感覚 脳と腸の不思議な関係』)

 

ちなみに英語で<直感>や<第六感>を意味する「ガットフィーリング」(gut feeling)という言葉は、この「内臓感覚」に由来するものだと考えられます。

第六感と内臓感覚

参考文献

上野川修一 『からだの中の外界 腸のふしぎ』 講談社

光岡知足 『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』 祥伝社

西原克成 『内臓が生みだす心』 NHK出版

福土審 『内臓感覚 脳と腸の不思議な関係』 NHK出版

福岡伸一 『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』 木樂舎

藤田紘一郎 『脳はバカ、腸はかしこい』 三五館

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