妊婦と腸内細菌

失われてゆく、我々の内なる細菌
『失われてゆく、我々の内なる細菌』

私たちの腸内フローラを形成している腸内細菌を大切にすることは妊婦の方にとっても非常に重要だと思われます。

 

マーティン・J・ブレイザー氏の『失われてゆく、我々の内なる細菌』(山本太郎訳)には、妊婦の方や新生児にとって腸内細菌はどのような意味と役割を持つのかが、詳しく書かれていましたので、長いですが引用してみたいと思います。

以下に引用する文章が、腸内細菌の働き腸内フローラ改善の大切さについて考える何らかのきっかけになれば幸いです。

 

 腸管微生物がエネルギー蓄積に関係する一方で、妊婦の膣内細菌も同時に変化し始める。それらも、子供の誕生に合わせて準備を始めるのである。生殖可能年齢にある女性には乳酸桿菌が常在し、膣を酸性に保つ。これが危険な細菌に対する防御となる。乳酸桿菌はまた、他の細菌を抑制し殺す分子を発展させてきた。

 妊娠期間中には、こうした勇猛な乳酸桿菌が繁栄して優位になり、他の細菌や侵入者の増殖を妨げる。それは、通常妊娠三八週から三九週にかけて起こる出産に向けた準備なのである。何がこの出産の過程を始動させるのか、なぜ、ある妊婦の出産は二週間早くなり、別の妊婦の出産は遅れるのかは、分かっていない。私は微生物がこの過程にも関与しているのではないかと考えている。

(『失われてゆく、我々の内なる細菌』p104)

 

 羊膜が破裂すると羊水が膣を満たし、母親の皮膚に群落を形成する。一方その頃、新生児はまだ子宮のなかにいる。陣痛が強くなり、子宮頸部が広がって、新生児は外界へ出てくる。アドレナリンやオキシトシンをはじめとする多くのホルモンが溢れ出す。

 出産過程が長いか短いかにかかわらず、無菌であった新生児は、やがて膣内に存在していた乳酸桿菌と接触する。膣は手袋のような柔らかさをもって新生児の表面を覆いつくし、それによって母親の細菌が移植される。新生児の皮膚はスポンジのようなものである。新生児は顔を母親の背中に向けて、ぴったりとくっつくようにして産道を通過する。新生児が吸い込む最初の液体は母親の細菌を含んでいる。いくぶんかの糞便も含まれている。出産は無菌的ではない。その営みは、初期の哺乳動物の頃から七〇〇〇万年にもわたってくり返されてきたものである。

(『失われてゆく、我々の内なる細菌』p104)

妊婦と腸内細菌

 生まれ落ちた新生児は、乳酸桿菌で満ち溢れた自分の口を本能的に母親の乳首にもっていく。こうして乳酸桿菌は初乳とともに新生児に受け渡される。このやり取りはこれ以上ないほどに完璧である。乳酸桿菌やその他の乳酸菌系細菌は、母乳中の主要な糖分であるラクトース(乳糖)を分解してエネルギーを作る。新生児の最初の栄養は初乳からもたらされる。初乳は防御抗体も含んでいる。こうした一連の過程によって、新生児の腸管に棲む最初の細菌にミルクを消化できる種が含まれていることが担保される。またそうした細菌は、競合相手でより危険な細菌を抑制する独自の抗生物質を備えている。妊娠期に母親の膣内で増殖する乳酸桿菌は、新生児の消化管の初期構成細菌となり、それに続く細菌群の基礎となる。新生児はこうして、新たな命を始めるために必要なすべてのものを得るのである。

(『失われてゆく、我々の内なる細菌』p105)

 

 出産後数日から分泌される母乳は新生児に大きな利益をもたらす。その母乳には、新生児には消化できないオリゴ糖が含まれている。なぜ母乳は、栄養豊富だが新生児が直接利用できない栄養をを含んでいるのだろうか。理由は微生物にある。オリゴ糖は、ビフィドバクテリウム・インファンティス(インファンティス菌)と呼ばれる細菌によって消化され、エネルギー源として利用される。インファンティス菌は、健康な新生児に見られるもうひとつの創始細菌である。母乳には、優遇するべき細菌を選択するという性質がある。おかげでその細菌は、競合する細菌より優位なスタートを切ることができる。母乳は、母親の老廃物であり、新生児に毒性を示す物質である尿素も含む。ここでも、尿素を窒素源として提供することによって、新生児の生存に利益をもたらす細菌が選択される。細菌と新生児が窒素を取り合わないためのひとつの仕組みである。自然は、なんと賢いことか。新生児に利益をもたらす細菌の成長を促すために、母親の老廃物を使うのである。

 新生児は細菌に満ち溢れた世界に生まれてくるが、新生児に常在する細菌は偶然の産物ではない。長期間にわたる進化のなかで、自然は常に役立つものを選択してきた。選択された細菌は、新生児が発達するために必要な代謝機能を提供する。それは新生児の腸管細胞に栄養を与え、悪玉細菌を追い出す働きをする。

(『失われてゆく、我々の内なる細菌』p105~106)

新生児と母乳